あの日、当直室で夜明け前に聞いた“ドーン”という音 ― 阪神淡路大震災が歯科医療に残した教訓 ―**
「あの日を忘れない — 震災と命の記憶」
みなさんこんにちは!お口の健康から全身の健康を創造する医療法人ユナイテッド理事長上原亮です。
1995年1月17日。私が広島大学口腔外科に在籍していた頃、大学病院で当直をしていた私のもとにも、未曾有の揺れの余韻が走りました。深夜の静けさを切り裂くような「ドーン」という衝撃音で目が覚めたのを、今でもはっきりと覚えています。まるで爆弾が近くで炸裂したかのような轟音と振動。それは単なる物理的な揺れではなく、心の奥底を揺さぶる何かでした。
病院が壊れていないか。入院患者さんは大丈夫か。時計を見るとまだ6時前。朝の寒さの中、私は廊下を歩き回りながら、無意識にそうしたことを確認していました。その時、近くで寝ていた上司の先生はびくともしないで眠り続けていたのです。あの図太さには、正直「この人は大丈夫だ」と妙な安心感を抱きました(笑)。
しかし、患者さんのことを思うと、笑い話では済まされません。阪神淡路大震災は、当時の多くの命と生活を奪い、そして私たち医療者に多くの気づきを与えました。
震災後に聞いた「義歯紛失」の現実
震災直後の状況から少しずつ様々なライフラインなどが回復しつつあるとき、歯科医療の現場から聞こえてきたのは、義歯を失ってしまったという声の多さでした。揺れによって義歯が飛び散り、捜したくても見つからない。義歯は「噛む」だけでなく、日常の生活の中で安心感や笑顔を支える存在でもあります。震災がその「日常」を一瞬で奪ってしまったのだと痛感しました。おそらくそれどころではなかったのでないかと思います。
この経験から、義歯についてのケアや対応を、改めて患者さんに伝えていく必要性を強く感じています。特に睡眠時の義歯装着については、これまでさまざまな議論があります。次にその文献根拠を整理しながら、現在の見解をお伝えします。
「寝る時の義歯」:外す?つけたまま?
1. 夜間義歯装着のリスク
一般的な歯科の教科書や臨床ガイドラインでは、義歯は 睡眠時には外すことが推奨されている とされています。
これは、義歯をつけたまま睡眠すると口腔内環境が悪化しやすく、細菌や真菌(カンジダ)による炎症や感染を引き起こす可能性があるためです。義歯を外して清掃し、口腔組織を休ませることは健康維持に有効であると報告されています。
またある疫学研究では、高齢者が就寝時に義歯を装着したまま寝ると、誤嚥性肺炎のリスクが2倍以上になる という報告がありました。これは義歯表面の細菌・真菌が唾液と混ざって気道へ入りやすくなるためとも考えられています。
2. 睡眠への影響についての科学的評価
一方で、「夜間義歯装着が睡眠の質にどのように影響するか」という観点では、現段階の科学的証拠は明確ではありません。複数の研究を統合したメタ解析では、睡眠時の義歯装着と非装着で、睡眠の質や呼吸状態に大きな差は見られないという報告もあります。
ただし、多くの研究には対象者や条件のばらつきがあり、結論を出すにはさらなる高品質な研究が必要とされています。
3. 義歯装着のメリットと例外的状況
入れ歯装着者の中には、「入れ歯を外すと顎関節が落ち着かない」「違和感で眠れない」といった訴えもあります。こうした場合、初期の適合訓練期間や、顎の位置安定を目的とした装着法が役立つ場合もあります。また特殊義歯やスリープ関連口腔装置を用いる場合には例外的な対応が検討されることもあります。
📚 文献レビュー
義歯を「装着したまま寝る」「外して寝る」に関する主要文献
① 夜間義歯装着は肺炎リスクを約2倍に高める
― 最も引用価値の高い疫学研究 ―
🔍 研究の要点(読みやすい解説)
この研究は、日本人高齢者を対象に行われた前向き疫学研究です。
夜間に義歯を装着したまま寝ている人は、外して寝ている人に比べて、
肺炎発症リスクが約2.3倍
義歯・舌のプラーク付着が多い
炎症マーカー(IL-6)が高値
であることが示されました。
つまり、
👉 「夜間義歯装着=誤嚥性肺炎の独立したリスク因子になり得る」
という、非常に臨床的インパクトの大きい結論です。
📖 出典(正式引用)
Iinuma T, et al.
Denture Wearing during Sleep Doubles the Risk of Pneumonia in the Very Elderly.
Journal of Dental Research. 2015;94(3 Suppl):28S–36S.
PMID: 25294364
PMC: PMC4541085
👉 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4541085/
② 義歯は睡眠時に外すことが推奨されているという国際的見解
― 教科書的・総説的立場 ―
🔍 解説
多くの歯科総説・教科書では、
義歯は睡眠中に外すことで
粘膜の回復
細菌・真菌(カンジダ)の増殖抑制
義歯性口内炎の予防
につながると説明されています。
これは「強いエビデンス」というより、
👉 長年の臨床経験と研究の積み重ねから形成された“国際的スタンダード”
と位置づけられます。
📖 出典(総説・参考文献)
Felton D, et al.
Evidence-based guidelines for the care and maintenance of complete dentures.
Journal of the American Dental Association (JADA). 2011;142 Suppl 1:1S–20S.
PMID: 21454634
※ 義歯は夜間に外し、清掃・乾燥させることを推奨
👉 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21454634/
(Wikipedia等よりも、JADA総説の方が医療ブログでは信頼性が高いため推奨)
③ 義歯と呼吸器疾患の関連を整理した系統的レビュー
― 単一研究ではなく「全体傾向」を示す ―
🔍 解説
2024年に発表されたこの系統的レビューでは、
義歯装着
口腔衛生状態
高齢者の呼吸器疾患(特に誤嚥性肺炎)
の関連を、複数研究を横断的に評価しています。
結論としては、
義歯装着と肺炎リスクの関連を示す研究は複数存在
ただし年齢、全身状態、清掃状態など交絡因子が多い
一律な結論ではなく、個別評価が重要
とまとめられています。
📖 出典(正式引用)
van der Maarel-Wierink CD, et al.
Oral health care and aspiration pneumonia in frail older people: a systematic review.
BMC Oral Health. 2024;24:148.
DOI: 10.1186/s12903-024-04814-5
👉 https://link.springer.com/article/10.1186/s12903-024-04814-5
当院の立場:顎位安定と健康を守るための推奨
文献上は「睡眠時義歯装着によるリスク」が複数報告される一方で、睡眠質への直接的な影響については明確なエビデンスが不足している、というのが現状です。しかし我々が大切にしているのは 顎位の安定と長期的な口腔・全身の健康 です。
歯科医療の面から考えると:
顎位が安定することで、咀嚼機能や咬合のバランスが保たれる
就寝時の義歯装着が、不快感や不安感を軽減し、睡眠の安心感につながる場合がある
ただし適合が悪い義歯や清掃不十分な義歯はリスクを高める可能性がある
という点を重要視しています。
そこで当院としては、
➡ 患者さん一人ひとりのお口の状態を丁寧に評価した上で、睡眠時の義歯装着を「顎位安定の観点から推奨」することがある
という結論を出しています。ただしその際は、
✔ 適切な清掃指導
✔ 口腔内の衛生管理
✔ 口腔組織への負担を最小限にする設計
をセットで指導しています。科学的な議論は続きますが、私たちは「根拠と個別性」を両立させて患者さんの安心を優先します。
最後に — 震災からの教え
阪神淡路大震災から年月が経ちましたが、あの日の記憶は私たちの医療と心に深く刻まれています。医療者として、患者さんの「日常」を守ることは当たり前のようで、実はとても尊い仕事です。義歯一つをとっても、その人の笑顔・食事・睡眠に直結しています。
これからも一歩一歩、「生きる力」につながる医療を提供し続けたい。そんな気持ちでこのブログを締めくくります。
どうか、みなさまの安全と健康が、日々守られますように。
そして、震災で失われた多くの命に、心からの追悼を捧げます。
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また当院は「ママとこどもの歯医者さん」グループに加盟しています。
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