災害時に困らないために──義歯は寝るとき外すべきか?最新エビデンスと歯科医の見解
みなさんこんにちは!お口の健康から全身の健康を創造する医療法人ユナイテッド理事長上原亮です。
12月8日夜、東北〜北海道を震源とする大きな地震が報じられ、そして避難を余儀なくされた方々もいたようです。思い起こすと、阪神大震災や東日本大震災といった災害時、われわれ歯科医療者が普段はあまり想像しないような「義歯紛失 → 食事ができない」という切実な問題が浮上します。
「夜、義歯を外して洗浄・保管していたら、地震で入れ歯がどこかへ飛んでいった/壊れた」「避難先でもう義歯が手に入らず、噛めずに栄養がとれない」――そんな事態は決して絵空事ではありません。特に高齢者、単身者、災害弱者にとっては命に直結しかねない。
こうしたリアリティを踏まえると、普段の「就寝時には義歯を外して清掃・保管」という習慣にも、 “災害リスク” の視点を加えるべきではないか。つまり、
地震や火災、水害など “何かあったとき” に備えて、義歯をつけたまま寝ることで「噛める状態を維持」しておく価値。
あるいは、災害時の義歯喪失リスクを下げるため、夜間に “定位置で清潔に保管” するという方法の見直し。
このように、「口腔 − 全身 − 社会/環境リスク」を包括的に考えることが、“災害も想定した真の包括歯科” には必要だと感じます。
そのうえで、「義歯を外す vs つけたまま寝る」の是非を、最新のエビデンスと臨床実感から整理してみます。
災害で入れ歯をなくした高齢者が続出──「噛めないこと」は命に関わる
過去の東日本大震災や熊本地震でも、義歯紛失による栄養低下や体調悪化が報告された。
「寝る前に外していた」「洗浄中に避難した」などが主な原因。
義歯は“命を支える医療器具”であり、災害時には「使える状態で持っている」ことが重要。

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🟢 外した方がよいとする論文(誤嚥性肺炎リスクへの注意)
近年、公的なコホート研究などで、就寝中の義歯装着と全身リスク(特に肺炎)との関連が報告されています。代表的なものを 3 件紹介します。
Denture wearing during sleep doubles the risk of pneumonia in the very elderly — 85 歳以上の超高齢者 453 名の義歯使用者を 3 年追跡した前向き研究。就寝時義歯を外さない人は、外す人に比べて 約2.3倍 肺炎発症リスクが高いことが確認された。さらに、舌や義歯へのプラーク付着、口腔粘膜の炎症、カンジダ陽性、IL-6(炎症マーカー)上昇など、微生物および炎症負荷の増加も報告されている。 PubMed+2PMC+2
Wearing removable dentures as a risk predictor for pneumonia incidence among the geriatric population — 2,364 名の高齢者を対象にした後ろ向きコホート研究で、義歯使用者は非使用者に比べて肺炎発症が有意に多く、義歯装着が独立したリスク因子であったと報告。ハザード比は 7.7 前後との報告例もある。 PMC
地域在住高齢者における口腔ケアと肺炎リスクに関する研究(例として、義歯手入れ頻度と肺炎の関連を示した報告) — ある研究では、入れ歯の手入れを毎日しない人は、毎日手入れをする人に比べて過去1年間の肺炎発症率が約1.3倍高かった、という結果が報告されており、口腔衛生管理と肺炎予防の重要性が示されている。 東北大学+1
これらの知見は、高齢者や嚥下機能が低下している人にとって、夜間の義歯装着が 誤嚥性肺炎など全身リスクを高める可能性が高い ことを示す、臨床的に非常に重みのあるものです。
エビデンス①:夜間に義歯を外したほうがよい理由(誤嚥性肺炎リスク)
① Iinumaら(2015)Denture Wearing during Sleep Doubles the Risk of Pneumonia
夜間装着群は外す群に比べ、肺炎リスクが約2.3倍。
舌や義歯にプラークが増え、炎症マーカーIL-6も上昇。
② Alzamilら(2021)Wearing Removable Dentures as a Risk Predictor for Pneumonia
義歯装着は高齢者における独立した肺炎リスク因子。
衛生管理が不十分な場合、特に誤嚥性肺炎の危険が高い。
③ 東北大学研究(2019)義歯清掃頻度と肺炎発症率の関係
義歯清掃を怠る人は、1年以内の肺炎発症が1.3倍。
「夜間外す+清掃」が予防策の基本。

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🔵 つけたまま寝ることを支持/容認する論文・報告(顎位保持・口呼吸防止)
一方で、「義歯をつけたまま寝る」ことには、義歯が口腔構造を支え、「機能および安全性」を維持する観点から、一定の妥当性を主張する報告や臨床見解もあります。以下、代表例を 3 件あげます。
総入れ歯使用者における顎関節・咬合高径維持の必要性を指摘する報告 — ある臨床解説では、総入れ歯を夜間外すと咬合高径が不安定になり、顎位の崩れや顎関節負担、残存顎堤の萎縮、顎関節症につながる可能性があるとされている。特に、残存歯がほとんどない完全無歯顎では、上下顎の距離・顎位の安定を維持するために、総入れ歯をつけたまま寝ることを推奨するという意見がある。 福岡入れ歯専門研究所|博多プライベート歯科運営の福岡の精密入れ歯・義歯の相談所+1
口呼吸・舌の沈下を防ぎ、気道を守る可能性への言及 — 総入れ歯を外すと、前歯および上下顎の支持がなくなり、仰向け時に舌が沈み込みやすくなったり、唇や頬のサポートが失われたりする。これが口呼吸を誘発し、乾燥、口腔内細菌増加、あるいは睡眠時無呼吸の悪化につながる可能性があるという臨床見解もある。特に、無歯顎高齢者や睡眠時無呼吸リスクのある人では、「夜間義歯装着」が機能的な意味を持つとされる。 福岡入れ歯専門研究所|博多プライベート歯科運営の福岡の精密入れ歯・義歯の相談所+2阿佐ヶ谷駅2分の歯医者「阿佐谷北歯科クリニック」+2
臨床家の判断による「個別適応」の提案 — すべての人に「外す/つける」を一律に決めるのではなく、義歯の適合性、残存歯や顎堤の状況、睡眠時の呼吸状態や全身疾患、生活環境(例えば災害リスクや避難先の状況)などを加味して、個別に判断すべき、というスタンスをとる専門医の報告もある。特に、義歯を適切に清掃・管理できる人では、「つけたまま」の選択肢も排除すべきではない。 くろさき歯科+1
エビデンス②:夜間に義歯を着けたまま寝るべき理由(顎位・気道確保)
① 総入れ歯患者における顎位と咬合高径の安定維持(九州入れ歯専門医, 2021)
義歯を外すと顎位が変化し、下顎後退→関節負担が増える可能性。
咬合高径を維持するため夜間装着が有効なケースも。
② 気道確保・口呼吸抑制の観点(Kyushu-ireba.com)
義歯が舌や唇を支えるため、舌の沈下や口呼吸を防ぐ。
睡眠時無呼吸を悪化させない可能性がある。
③ Nocturnal Use of Denture and Sleep Quality(Emamiら, 2021)
義歯装着による睡眠の質への悪影響は認められず。
睡眠時呼吸障害を一律に悪化させる根拠は乏しい。
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🧑⚕️ 災害リスクを含めた現代の「入れ歯管理」をどう考えるか
ここで、冒頭に触れた「災害時リスク」という視点を重視すると、次のような現実的なジレンマが浮かびます。
誤嚥性肺炎など“静的/慢性的リスク” を回避するためには「夜間外す+清掃・保管」が望ましい。とりわけ高齢者や呼吸器・嚥下機能に不安のある人には、安全策としてほぼ必須。
しかし、地震・火災・水害など“動的/突発的リスク” を考えると、義歯をつけたまま寝ておくことで、「災害時でも最低限の咀嚼と栄養摂取」を確保できる可能性がある。特に高齢者・単身者・流動的避難者には、この安全性が命綱になることも。
また、義歯の適合状況、残存歯や顎堤の状態、顎位、咬合高径、生活環境、清掃管理能力などが個人で大きく異なるため、「一律の指導」は現実的でない。
――つまり、我々臨床家としては、「普遍的な正解」ではなく、「患者の生活背景・リスク環境を含めた個別最適」を提案すべき、ということ。
――
✅ 私の結論:清潔にできるなら「つけて寝る」を選択肢に
これらを踏まえて、私個人(そしてあなたのように補綴・インプラント・訪問診療に携わる歯科医)の立場からは、こう結論します:
基本は「夜間に外して清掃・保管」が望ましい。特に高齢者、認知機能低下、嚥下障害、呼吸器リスク、衛生管理が難しい人では、この選択を強く推奨。
しかし、義歯の適合が良好で、清掃・洗浄をきちんとできる患者/環境であれば、「就寝時も義歯を装着したまま寝る」は、十分に選択肢になり得る。特に、災害リスクの高い地域、高齢者単身世帯、避難を想定すべき人などでは、義歯を“いつでも機能する状態”に保つことに価値がある。
したがって、患者にはただ「外す/つける」の二択を指示するのではなく、 「清潔管理」「清掃頻度」「避難リスク」「残存歯状況」「全身リスク」 などを含む包括的な問診・リスクアセスメントのうえで、個別に指導・選択肢を提示すべき。
――つまり、エビデンスが指し示す「リスク」と、リアルな「災害・生活リスク」を両天秤にかけて。
結論──「災害+誤嚥+生活」の三軸で考えると
エビデンス的には「外す」派が優勢だが、生活環境や災害リスクを無視できない。
義歯を紛失したときの食事・栄養障害は、肺炎以上に命に関わるケースも。
歯科医の見解──清潔に管理できるなら「つけて寝る」を推奨
清掃・洗浄を徹底すれば、就寝時装着も合理的選択。
義歯は「口腔器具」ではなく「生命維持装置」の一部。
就寝前:
義歯ブラシで清掃
洗浄剤で除菌
よくすすぎ、乾燥させない状態で装着
義歯サイト
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📝 結び ― 歯科医としての提言
近年、高齢化、単身高齢者の増加、災害リスクの高まり。そうした時代背景のなかで、義歯管理はもはや「口の中だけ」の問題ではありません。食べる力、栄養、命の維持、さらには災害時の生存性に直結するテーマです。
だからこそ、われわれ歯科医は、患者ひとりひとりの生活背景まで想像し、単なる「清潔 vs 不潔」といった古典的な二分論から抜け出すべき。清潔ケアができるならば「つけたまま寝る」を許容し、義歯の機能性と安全性を最大化する。もちろん、定期健診、清掃指導、義歯のメンテナンス、そして「災害に備えた入れ歯の紛失防止・代替プラン」の提案も怠らずに。
私たち歯科医にとって、義歯は単なる「歯の代用品」ではなく、「命を支えるインフラ」のひとつ――。そんな視点で、患者さんとともに「あなたにとって最適な義歯の使い方」を考えていきたいと思います。

患者さんへ伝えるべきポイント
夜間の誤嚥・粘膜炎リスクと災害時の備え、両方を説明。
個々の義歯適合度・衛生管理力・全身状態で判断する。
災害時の「予備義歯」「義歯保管ケース」「持ち出し袋」も推奨。
「SPT(歯周病のメインテナンス)」→ [歯周病ページへの内部リンク]
「お口の健康から全身の健康へ」→ [訪問診療ページへの内部リンク]
「スタッフと共に歩む」→ [求人ページへの内部リンク]
また当院は「ママとこどもの歯医者さん」グループに加盟しています。
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