🦷乳がんと“失活歯(神経をとった歯)”は関係ある? ニューズウィーク日本版の記事を読んで考える「予防歯科の大切さ」
みなさんこんにちは!お口の健康から全身の健康を創造する医療法人ユナイテッド理事長上原亮です。
当院のインプラント患者さんで女性、失活歯が多い方のうち3名が乳がんに罹患されたこともあり、以下のニューズウィーク日本版の記事を注意深く読みました。私は決して失活歯=全部悪とまでは思っていませんが、10年位前にこのことを教えて頂いた師匠はさすがによく勉強されているなと思いました。
やはり、歯の神経は大切で、いかなる治療に勝るのが予防医療ですね。

🔎 問題提起 — なぜ「失活歯 × 乳がん」の論が再燃?
最近、ニューズウィークの記事(日本でも紹介された)がきっかけで、次のような報告が広まりました。
ある乳がん患者の口腔CTで、根管治療済みの歯に「根尖病巣(膿などの病巣)が確認された」
抜歯後に体調の改善が報告された という事例です。
このような報告が、「失活歯=病巣=全身のリスク」という認識につながり、患者さんに不安を与えています。
では、この認識はどこまで“科学”に耐えうるのでしょうか。
🌍 スイスのParacelsus Clinic と Dr. Thomas Rau — ホリスティック歯科の立場
ネット上でしばしば取り上げられるのは、スイスの Paracelsus Clinic による以下のような主張です:
Dr. Thomas Rau は、多くの乳がん患者に「根管治療(失活歯)があった」という臨床観察を報告しており、
そのため、同クリニックでは「根管治療歯は放置せず抜歯」を勧めることがある。The Center For Holistic Dentistry+2paracelsuswellness.vn+2
Holistic Dentistry に関するウェブ記事にも、こう記されています:
“Dr. Thomas Rau … has found a higher incidence of root canal treated molars in women with breast cancer.” The Center For Holistic Dentistry
ただし、これらは 学術論文ではなく臨床観察・代替医療的報告である点に注意が必要です。
📚 科学的コンセンサス ― 標準歯科/腫瘍医療の見解
現在、歯内療法(根管治療)やがん研究の分野で広く認められている立場は、次のとおりです:
根管治療ががん(乳がんを含む)を引き起こすという科学的な疫学データは、存在しない。ポリティファクト
複数の研究でも、根管治療を受けた人々のがん発症リスクが有意に高まることは確認されていない。むしろ “根管治療を含む口腔の健康管理が全身の健康にとって有益” という評価が主流。ポリティファクト+1
また、“根管治療=必ず不衛生・慢性炎症源”という古い常識は、近代の技術(マイクロスコープ、リーマー、消毒材、ラバーダム等)の進歩によって大きく変わっている。
つまり、現時点で「根管治療歯が乳がんを起こす」という因果関係は、主流の科学・医療の間では支持されていません。
✅ なぜ「抜歯→インプラント」といった極端な対応には慎重であるべきか
Paracelsus Clinic のように “すべて抜歯” を推奨する立場もありますが、歯を失うことには以下のようなデメリットがあります:
咀嚼機能の低下、顎骨の吸収、咬合バランスの崩れ
インプラントや補綴への移行では、手術リスク、費用、メンテナンスが必要
また、インプラントも「万能」ではなく、生体との調和や将来のメンテナンスを考える必要がある
こうした点を考えると、
「根管治療+適切なケア」「天然歯の保存」を第一に考えたうえで、 状態によって“抜歯+補綴(インプラントなど)”を検討する、という バランスある判断 が現実的です。
🛡️ 予防歯科の重要性 ― “試合前のコンディションづくり”として
実は、最も大事なのは「そもそも歯を失わないように守ること」。それが、根管治療の必要性を減らし、将来的なリスクを減らします。
定期的なプロによるクリーニング(SPT)
歯磨き・生活習慣の改善
適切な咬合管理
これにより、深い虫歯や歯周病を未然に防ぎ、神経を守り、天然歯をできるだけ長く維持。
失活歯を“防止する”――それこそが、 予防歯科の真骨頂なのです。
📣 まとめ ― 情報に流されず、「事実」と「選択」で守るお口と身体
Paracelsus Clinic や Dr. Thomas Rau のような代替医療の主張は存在するが、 科学的根拠としては弱い
標準的な医学/歯科の見解では、根管治療ががんを直接引き起こすとは認められていない
だからといって「根管治療=安全・万能」でもない。
→ 保存の際は、精密治療と術後管理が不可欠しかし何より重要なのは、 予防歯科に力を入れ、天然歯を守ること
もし、過去に根管治療を受けた歯が気になる方、あるいは将来に不安がある方は、
まずは 定期健診・クリーニング から。
必要があれば、 精密診断 → 保存 or 補綴 の検討を。
恐怖や噂に流されるのではなく、
「事実を知って、納得して、選ぶ」。
それが、本当の意味でのお口と身体の健康につながります。
予防しましょう!
「SPT(歯周病のメインテナンス)」→ [歯周病ページへの内部リンク]
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また当院は「ママとこどもの歯医者さん」グループに加盟しています。
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きょうもご覧いただきありがとうございました!
参考文献など
1. 「根管治療歴」とがんリスクを直接扱った研究
1-1. Tezal ら(JAMA Otolaryngology, 2013)
Tezal M, et al. Dental caries and head and neck cancers. JAMA Otolaryngology–Head & Neck Surgery. 2013;139(10):1054–1060. American Association of Endodontists
デザイン:症例対照研究(頭頸部がん患者と対照群)。
ポイント:
未処置カリエスが多いほど、頭頸部がんリスクが上昇。
一方で、エンド治療歴(複数の根管治療を受けている症例)は頭頸部がんリスクが低い(最大45%リスク減) と報告。これは、AAEの Root Canal Safety ページでも代表的な根拠として引用されています。American Association of Endodontists+2Dr Michael’s Dental Clinic+2
1-2. University of Michigan 系列のコホート(Head & Neck Cancer)
(Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention, 2013 年のコホート研究)
AAE や複数のレビューでしばしば引用されている研究で、根管治療歴を有する群は、頭頸部がんリスクが上昇するどころか、むしろわずかに低い という結果が報告されています。Medical Realities+1
オリジナル論文は有料ジャーナルですが、AAE と複数のエンドドンティック関連サイトが、
「根管治療を受けた患者でがんリスクの増加は認められず、むしろ複数回エンド治療歴のある患者で頭頸部がんリスクが約45%低かった」
と要約しています。American Association of Endodontists+2Dr Michael’s Dental Clinic+2
👉 まとめ:
「根管治療そのものががんリスクを上げる」という疫学的証拠は現時点ではなく、むしろ 「感染源をきちんとコントロールしている人の方が、頭頸部がんリスクが低い」 という方向のデータが多い、ということになります。
2. 根尖病巣・根管感染を含む「歯科感染」と特定がんの関連
ここからは 「治療済みの根管」ではなく、「根管感染・根尖病巣(apical periodontitis)・抜歯歴など、慢性歯科感染」 に着目した疫学研究です。
2-1. スウェーデン全国コホート:膵がんと口腔感染
Yu J, et al. Poor dental health and risk of pancreatic cancer: a nationwide registry-based cohort study in Sweden, 2009–2016. Br J Cancer. 2022;127:2133–2140. Nature+1
N ≒ 590 万人、追跡 7.2 年の大規模コホート。
デンタルレジストリで
カリエス
root canal infection(根管感染)
軽度炎症
歯周炎
がコード化され、膵がん発症との関連を解析。
50歳未満では root canal infection を有する群で膵がんリスクが 1.58 倍(HR 1.58, 95%CI 1.10–2.28)、歯周炎など他の炎症性疾患も同様にリスク増。Nature
ポイント:未治療の根管感染や歯周炎など「慢性炎症」が、膵がんリスクと関連し得る という強いシグナルを示した研究。
2-2. スウェーデン全国コホート:食道がんと口腔健康
Zhang J, et al. Poor Oral Health and Esophageal Cancer Risk: A Nationwide Cohort Study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2022. PubMed+1
約 500 万人規模のコホートで、
root canal infection
歯周炎
歯数
と 食道腺がん・扁平上皮がん のリスクを解析。
ベースラインで root canal infection を有する群は、食道腺がんリスクが 1.41 倍(HR 1.41, 95%CI 1.10–1.82)、歯周炎でも 1.3~1.4 倍程度のリスク増。PubMed+1
2-3. フィンランド 24 年追跡:過去の歯科感染と全がんリスク
Virtanen E, et al. History of dental infections associates with cancer in 24-year follow-up. Int J Cancer. 2014. PMC
抜歯された大臼歯の本数を「過去の歯科感染の代理指標」として評価。
歯周病や根尖性歯周炎により抜歯されたと考えられる大臼歯が多いほど、全がん発症リスクが有意に増加。
著者らは「慢性歯科感染が長期的ながんリスクを高めている可能性」を示唆。
2-4. 総説:根尖性歯周炎と全身疾患(エンドドンティック・メディシン)
Ye L, et al. Interaction between apical periodontitis and systemic disease (Review). Int J Mol Med. 2023;52(1):60. Spandidos Publications
Apical periodontitis(AP:根尖性歯周炎)と全身疾患の疫学・メカニズムをまとめた総説。
疫学的には、AP が
糖尿病
心血管疾患
骨粗鬆症
自己免疫疾患
などと関連する研究を整理し、「局所感染である AP が、慢性炎症や免疫調整を通じて全身に影響しうる」と論じています。Spandidos Publications
直接「がん」を主題にはしていませんが、慢性根尖病巣が全身性炎症の一部として機能しうるという背景を理解する上では必読。
3. 歯周病・口腔衛生と乳がんを含むがんリスク
根管治療そのものではありませんが、「口腔の慢性炎症」と「乳がん」を結びつける疫学データとしてよく引用される領域です。
3-1. 歯周病と乳がん:前向きコホート
Freudenheim JL, et al. Periodontal disease and breast cancer: Prospective cohort study of postmenopausal women. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2015. PMC+1
閉経後女性 約 7 万人 を対象とした前向きコホート。
主に喫煙歴のある女性で、歯周病既往が乳がん発症リスクを有意に増加させることを報告。
口腔の慢性炎症(歯周病)が乳がんリスク因子の一つになりうることを示唆。
3-2. 歯周病と乳がん:メタアナリシス
Shao J, et al. Periodontal Disease and Breast Cancer: A Meta-Analysis of Observational Studies. PMC
歯周病と乳がんの関連を評価した観察研究を統合したメタアナリシス。
全体として、歯周病患者では乳がんリスクが有意に高い という結論。
「歯周病が乳がんに直結する」というより、全身炎症負荷の一部としてリスクを押し上げる可能性 を示しています。
3-3. 口腔衛生とがんの総説
Rajesh KS, et al. Poor periodontal health: A cancer risk? J Indian Soc Periodontol. 2013. PMC
歯周病と
口腔がん
頭頸部がん
膵がん
乳がん など
との関連をまとめた総説。
歯周病や歯の欠損を指標とした多数のコホート研究・症例対照研究を整理し、「口腔の慢性炎症が複数のがんで共通のリスク因子候補になっている」 ことを強調。
4. 参考:エンド治療患者とがん患者の歯科管理に関する研究
4-1. がん治療前後の歯科介入・根管治療
Skallsjö K, et al. Apical periodontitis as potential source of infection in patients with lymphoma undergoing chemotherapy. Clin Oral Investig. 2020. SpringerLink+1
リンパ腫化学療法患者において、根尖性歯周炎を放置しても重篤な感染性合併症は少なかった という後ろ向き研究。
「がん患者では治療前にすべての失活歯を抜歯するべきか?」という臨床的疑問に対し、慎重なモニタリングと必要に応じたエンド治療でも安全に管理できるケースが多い ことを示唆。
Romeiro K, et al. Controlling Root Canal Infection in Oncological Patients with Nonsurgical Root Canal Treatment. J Endodontics. 2024–2025 近傍. jendodon.com+2Ovid+2
がん患者の感染根管に対して、回転式器具 + NaOCl 洗浄 + Ca(OH)₂ 製剤による根管治療が、細菌数を著明に減らし、術後疼痛も許容範囲 であった、という前向き研究。
「がん患者=全ての失活歯を抜歯」ではなく、適切なエンド治療で病巣コントロールを図る選択肢の有用性 を示しています。
5. ざっくりした現状整理(診療の説明用メモとして)
文献を並べると、ざっくり次のような整理になります:
「根管治療そのもの」と全身がんリスク
JAMA Otolaryngology 2013 や University of Michigan 系列の研究では、
根管治療歴があるからといって全体のがんリスクが上がるという証拠はなく、むしろリスクが低い方向 のデータもある。American Association of Endodontists+2Dr Michael’s Dental Clinic+2
一方、「未治療の根管感染・根尖病巣や歯周病などの慢性炎症」は、膵がん・食道がん・乳がんなど特定のがんリスクと関連するコホート研究が増えている。PMC+4Nature+4PubMed+4
乳がんについては、歯周病や口腔衛生不良との関連を示すデータは複数あるが、「根管治療した歯」単体を乳がんリスクと結びつけた信頼できる疫学データは今のところ存在しない というのが国際的なコンセンサスです。prosthocosmeticdentistry.com+3American Association of Endodontists+3American Association of Endodontists+3
つまり、**「失活歯=即がんの原因」という単純な因果論ではなく、
放置された根管感染・根尖病巣
歯周炎などの慢性炎症
全身の免疫・代謝状態
が重なり合って、がんを含む全身疾患のリスクを押し上げる可能性がある** — というフレームで説明するのが、現時点のエビデンスに沿っています。